シナン

オスマントルコの偉大な建築家・シナンの生涯を書いた『シナン』を読みました。

シナン〈上〉 (中公文庫)

シナン〈上〉 (中公文庫)

シナン 下 (2) (中公文庫 ゆ 4-6)

シナン 下 (2) (中公文庫 ゆ 4-6)

前にトプカプ宮殿の秘宝展を見に行って(http://d.hatena.ne.jp/terattha/20071105#p1)この時代のオスマントルコにはちょっと興味があり、さらに元々建築物好きで夢枕獏好きだったので、こりゃ読むべしと思い手にとりました。
小説は、夢枕風味は薄味でそこは若干物足りないところもありますが、歴史やイスラム風土を語る小説としては結構面白いです。
特にイスラム文化は、よく聞く話ではあるのですが、その時代の他の地域(ヨーロッパ、アジア、日本)と比べて自由で平等な空気があるような感じで面白かった。
あと面白いなぁと思ったのは、オスマントルコじゃキリスト教は特に禁止されてなかったんだってさ。何故かと言えば、

信仰を許されたといっても、それはユダヤ教徒キリスト教徒のみであった。これは、ユダヤ教の神ヤハウェも、キリスト教の神エホバも、そして、アッラーもまた同じ神でであると、トルコのイスラム教徒たちが考えていたからである。
同じ神のことを、ユダヤ教徒ヤハウェと呼び、キリスト教徒はエホバと呼び、イスラム教徒はアッラーと呼ぶ。
シナン(上)より

だからだそうな。実はオレもそのように思うことがあったよ。でもそれはオレが無宗教の国である日本に生まれた人間だからだと思っていたので、イスラムの人達がそのような感覚を持っていたというのはちょっと驚きだった。...現代ではどう思っているのか知らないけど。
もう一つ心に残った場面。ヴェネツィアで偶然知己を得たミケランジェロ・ボナッティに、主人公のシナンは答えが出ずに悩み続けていた事柄を問う。それに対してミケランジェロが答えるところ。

「仕事をしなさい」
「それ以外に答を得る方法はないよ。人に問わずに、仕事に問うことだ。自分の手に問うことだ。仕事をしなさい」
「様々なことが、我々を襲ってくる。病。死。権力争い。戦。女。それこそ数えきれないほどのものが、常に我々を襲ってくるのだ。しかし、どのようなことが我々を襲ってこようとも、我々には、仕事がある。この手がある。仕事をすることだ。自分のはらわたをひり出してしまうほど、仕事をしなさい。仕事をしなさい、シナン。仕事をすることだ。そのような不幸も、禍いも、我々から仕事を奪うことはできないのだ。我々が仕事を望む限りはね。仕事をしなさい。仕事をするのだ。これは、自戒の念を込めて言うのだが、結局、我々にはそれしかないのだ。仕事をしなさい。きみの仕事が、きみのその問いに答えてくれるだろう。仕事が、きみにその答をもたらしてくれるだろう。仕事をしなさい」

ミケランジェロシナンを会わせたのもスゴいけど、その上このセリフ言わすかよ。さすが夢枕先生。まぁでも、オレははらわたひり出すのは嫌だけどね。この台詞中の“仕事"は別に何に置き換えてもいいんだろうけど...やっぱりオレも“仕事”かねえ。今のところ。