THIS IS IT & アンヴィル!夢を諦めきれない男たち

年末年始にたまたま観た音楽ドキュメンタリー映画のこの二本。観た時は「マイケルってしゅげー!」「おっさん達、頑張れよ」くらいの軽い感想しか持ち得なかったのですが、時間が経つにつれて二本の映画が頭の中で対比して再生されるようになり、実に心がもやもやしてきたのでここで書き散らしておくことにします。


THIS IS IT』の主人公は言わずと知れたマイケル・ジャクソン。物心も付かないうちに音楽業界の頂点に立ち、数々のスキャンダルにさらされながらも、今なおKING OF POPと呼ばれる人。
アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』の主人公は、カナダのメタルバンド・アンヴィルのヴォーカルとドラムの幼なじみ2人。二十数年前に一世を風靡したもののその後鳴かず飛ばず。現在は給食配達人と建設作業員をしながら音楽活動を続け、成功を夢見ている。


彼ら三人は同年代ということになる。


THIS IS IT』はロンドン公演のリハーサルを収録した映像だ。しかしそれを観た観客は、リハーサルという言葉とは全く違うものを観て驚かされる。マイケルのパフォーマンスが完璧なのだ。彼の他の、例えば、ダンサー、バンド、音響などは、リハーサルという言葉通りの完璧とはほど遠い状態だが、マイケルだけは完璧。マイケルは完璧なパフォーマンスをしながら周囲を感じており、一通り終わった段階で細かい指示を出して行く。つまり、このリハーサルというのはマイケルと周囲の擦り合わせ作業に相当しているのだ。そのパフォーマンスを見れば、彼が1人でこのリハーサル前にやってきたのが生半可なトレーニングではないことは一目瞭然だ。ただし、彼がそうした努力をしている姿はこの映画では見ることができない。つまりは、コンサートスタッフも見ることができないということになる。彼はまさにKINGだった。観客の前だけでなく、本来彼の身内であるはずのスタッフの中でさえ。


アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』の主人公たちはいつも不安で苛ついている。何しろ金が無いのだ。音楽で成功するには何しろ金が要る。良いスタジオでレコーディングするのに金がかかり、良いプロデューサーにも金がかかる。それなのに必死で作ったアルバムはレコード会社に見向きもされず、販売ルートができなかったりする。レコーディングの最中、不安と苛立ちが頂点に達したヴォーカルは、親友のドラムに怒鳴り散らしてしまう。ドラムはそれに怒り返し、「お前が苛つく気持ちは分かるが、なんでいつも俺ばかりに当たる?もう耐えられない。解散だ」と、仲違いとなる。時間が経ち、冷静になったヴォーカルはドラムに謝罪に現れる。ドラムは再度問う。「何故俺にばかり当たるんだ?」と。ヴォーカルは、「お前以外に誰にこんなこと言えると思ってるんだ。お前だけだ。お前...お前...」と、泣き崩れる。「分かった...分かったよ」2人は抱きしめ合う。


幸せってなんだろうね?分からん。本当に分からんよ。
夢を叶えることが幸せか?
心から信頼し合える友達がいることが幸せか?
届かない夢に恋い焦がれることがないことが幸せか?
彼らは追った。追っている。じゃあオレはどうなんだろうね?わっかんねえなあ。